匂い

匂い。嗅覚。人間の、嗅覚、感覚、知覚、感受性。
ぼくは、不思議に思う。それらを、とても不思議に思う。
どうして目の前にある現実は一定ではないんだろう?
どうしてぼくの見ているものは、あなたの見ているものと同じではないんだろう?
どうして今確かにいるこの場所が、とつぜん違う所になったりしてしまうんだろう?

よくあるでしょ。アジアン雑貨屋さん。
たいてい、雰囲気を出すために、お香を焚いている。
独特の香りのする、あれだ。
そしてそれらは、ネパール製だったりする。
その前を通ってね、その煙の匂いを嗅いだりすると、ぼくは一瞬にしてカトマンズへ行ってしまうんだ。
カトマンズの思い出が、目の前に広がってくる。
そのとき見ていた光景の、本当にちょっとした細かな部分までが鮮明に甦ってくる。
インドでなくってネパール、なんだ。
あの、甘い香りは、カトマンズなんだ。
その煙りの匂いは、このぼくを一瞬にしてネパールへ連れていく。
目の前に広がる、甘い思い出。
他のどこでもない、ネパールの思い出。
とっても甘い。甘く切ない。

そんなのが。
忘れてしまっていた、そういう感覚が、お香ひとつでよみがえる。
不思議だと思わない?
人間は、忘れてしまっていると思っていても、どこかでそれを覚えているものなんだ。
感覚が、無意識を刺激して、目の前に幻をつくり出す。
お香の匂いは、オレに、カトマンズの風景をとてもはっきりと、思い出させる。

無限だな、と思う。
人間の感覚は、無限なんだな、と思う。
そんな奇跡をつくり出せる。

健全な社会生活を送るために、健全な約束事があって、オレはそれらを、とってもつまんないものだと思うんだ。
人間とは本来、もっと自由で、何でもありの存在だと思うから。

ぼくは、人間の持っている感覚が好きだ。
言葉では言い表わすことのできない不可思議さが好きだ。
だから、世界とは、もっと自由であるべきだ。
お香の香りひとつでカトマンズへ行けるぼくみたいな奴もいるんだもの。
もっと何でもありでいいじゃないか。

世の中は、もっとはっきりしている。
答えは、すぐ目の前にある。
そんなにシンプルな世の中なのに、何故だかとても難しいものに思えてしまう。
それってもったいないよね。
せっかく生まれてきたんだから、ぼくは楽しく生きたい。
楽しんで毎日を過ごしたい。

さとうりゅうたの軌跡
さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

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