不公平

「その後は随分と悩みました。あんなに好きだったサッカーもプレイはおろか、テレビでの試合も見なくなりました。ボールを見るのも嫌になった程です。その後、何年もボールに触れることはありませんでしたね。でも、幸い自分は周りの人間に恵まれていたんっす。みんな辛抱強く自分のことを見守ってくれて……。だからそこまで自暴自棄になることもなく、何とか立ち直ることができたんっすよ。いや、実際はかなり自暴自棄になってたんっすけど、そこまで道を踏み外さなかったのも、本当、友達や家族のおかげっす。やけくそになってた自分のどんなわがままにも我慢してくれて……。本当に感謝してるんっすよ。ありがたいと思ってます。でも……。あの事故が十六の時だったから、もう、十年も経ってるんっすよね……、それだけ時間が経っていても、やっぱり、あいつの死が完全に吹っ切れてる訳ではないんっすよ。今でも、夢でうなされたりすることがあるんっす。あいつが夢に出て来てね、何でお前じゃなかったんだ、何で俺が死ななきゃならなかったんだ、ってね、何度も言うんっすよ。夢の中で。俺はひたすら謝り続けるんっす。ごめんな、ごめんな、堪忍してくれ、って。そして大抵、泣きながら目を覚ますんっす」

智は、そんな安岡の気持ちが何となく分かるような気がした。安岡が、死んだ友達に抱いている罪悪感のようなものは、智が一希に対して感じている気持ちに似ていた。死んだ者と生き延びた者。恐らく両者を隔てたその差など、ほんの些細なことに過ぎないのだろう。ある時、何かをやったかやらなかったか、というぐらいのことに違いない。生き延びてしまった安岡と智は、そのことに対して何か不公平なものを感じずにはいられないのだ。生き延びてしまったということを、フェアなことだとは思えなかった。

「でも、最近ひとつ変わったのが、自分、またサッカー始めたんすよ。ボールを蹴り始めたんっす。地元のかつての仲間達が作った草サッカーチームなんすけどね。そいつらに誘われて自分も入れてもらったんすよ。けど、最初の内はやっぱり戸惑いました。シューズを履くのにも抵抗があって……。でも、やっぱりそのとき助けてくれたのが仲間達でした。みんな、無視するんっすよね。そんな風に戸惑ってる俺を。変に気を遣ったりすることもなく……。ボールが自分の所に転がってきたら、取ってくれよ、って言うぐらいでね。そしたら知らない間にみんなに加わってたんすよ。それで必死になってボールを追いかけてたら、何だか今まで自分に重くのしかかっていた様々な思いが、どんどん軽くなっていくような気がして、凄く清々しかったんっす。ああ、ボールを蹴ることはこんなにも楽しいことだったんだな、って、昔のことを思い出してました。あいつと一緒に蹴ってた時のことを。そしたら今まで押し殺してたあいつとの思い出が、どんどんどんどん胸の奥から溢れて来たんすね。俺は、思わずその場にうずくまって泣いてしまいましたよ。涙がどんどん溢れて止まらなかったっす。気が付いたら、はばかりもなく、大きな声で泣き叫んでました」

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