智は、ああ、もちろん、と言って、灰皿の上に途中で消したまま置いてあったジョイントを手に取ると、再び火をつけて安岡に手渡した。安岡は、ありがとうっす、と言ってそれを受け取った。そしてぎこちない様子で大きな吸気音をたてながら深々と煙を吸い込むと、改めて智の方に向き直ってゆっくりと話し始めた。

「自分、高校のときサッカーやってたんっすよ。結構強い学校で、県の大会でも常に上位に喰い込んでいたようなチームでした」

安岡は、もう一度ジョイントを吸った。安岡の厚い胸板ではち切れんばかりの小さめのTシャツは、汗でべっとりと濡れている。狭い部屋は、二人の汗の匂いと湿気と大麻の煙とで充満していた。粘ついた、とても不快な夜だった。

「だから練習も毎日結構ハードだったんっすけど、自分は割と楽しんでやってました。それも小学校からずっと一緒にサッカーやって来た友達がいたからなんっすよ。自分とそいつはチームの中でも中心的なコンビだったんっす。そいつとは普段から仲良かったんすけど、プレーしてる時は更に特別息が合ってて、二人でボール蹴ってる時は、疲れた、とか、もう駄目だ、なんて思ったことは一度もなかったっすね。何せ楽しくって。お互いがお互いの動きを分かってて、何も合図なんてしなくてもスッと相手の所にボールが出せるんっすよ。そういうのがスパッと通った時が凄く気持ちいいんっす。ああ、サッカーやってて良かったなって思える瞬間っす。そしてそう感じる度に、ああ、こいつとずっとサッカーやっていきたいな、ってしみじみ思ってました」

安岡は、ミネラルウォーターの入ったペットボトルを手に取ると、ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。そして、Tシャツの裾で濡れた口を拭うと、再び話し始めた。

「それが、ある日の練習中のことでした。その日は暑い夏の日で、確か台風が来る前日だったと思います。風が無くってすっごく蒸し蒸しした日だったんっすけど、雨は降ってませんでした。ただ、雷が凄くって、稲光りを光らせながらゴロゴロゴロゴロ鳴り響いてたんっすよ。自分達はちょっとビビってたんすけど、まあ、高校生でしたしね。雷ぐらいで練習を止めたりはしません。そのままいつものように練習を続けていました。自分もいつものように相棒と一緒にボールを蹴ってたんっすよ。そして、本当に突然のことでした。あの光景は今でも忘れられません。忘れたくても忘れられません。あいつが、俺の名前を呼んで、声をかけながらボールを蹴ったその瞬間のことでした。雷が落ちたんっす……」「えっ、雷が落ちたって、ひょっとして、その友達に……?」

安岡は無言で頷いた。

「そうなんっすよ。直撃でした。後で聞いた話によると、スパイクのポイントって分かります? 靴の裏に飛び出してる爪みたいなやつのことなんっすけど、金属製のそれに落ちたらしいんっす。まあ、どこに落ちたにせよ、目の前で自分の親友が死んだんっすよ。しかも、大好きだったサッカーやってる途中に。もう、ショックなんてもんじゃなかったっすよ。自分は、その日限りでサッカーを辞めてしまいました……」 

少し寂しそうな表情をして安岡は俯いた。智は、何て声をかけていいのか分からずに、しばらくの間安岡の顔を眺めながらじっと沈黙していた。安岡は、気を取り直したように顔を上げると再び口を開いた。

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