遺族

「キヨシ、キヨシ……」

担架に乗せられた一希が、何度もうわ言のように清志の名前を呼んだ。

「一希! 喋るんじゃねえって! もう少しだから! 絶対助かるから! 頑張れ、頑張れよ!」

心路は、泣きじゃくりながら血まみれの一希の手を握っている。担架を担いでいる者達の足並みが次第に速くなっていく。揺れる懐中電灯の光が漆黒の森を白く照らしだす。

「キヨシ、ごめん、ごめん……」

カズキの腹部からの出血はどんどんひどくなっていく。白い担架が赤く染まり、黒い地面に鮮血が滴り落ちていく。

「馬鹿、カズキ! もう喋るな! 分かったから、喋んじゃねえよ!」

心路は、祈るように一希の手を握り続けている。

「許して、キヨシ、俺は、俺は……、ハァ、ハァアアア」
「だから、喋んじゃねえって! 頼むから、カズキ! 頼むからもう喋らないでくれ!」「ハァ、ハァァァアア、キヨシ、キヨシ……」

一希の声はかすれるように消えていき、首が力なく横を向いた。一希の頭は、担架の振動に抗することなく、揺れるがままに揺らされている。一希の真っ直ぐな長い髪が一希の顔を覆い、薄く見開かれた目の中にその髪の先端が入り込んでいる。

「カズキ! カズキ! ワアアアアアア!」

心路は、一希に覆い被さって泣き崩れた。担架は、一希の死体もろとも地面に叩き付けられ、それを運んでいた者達はその勢いで激しく転倒した。心路は、そんな周りのことなど全くお構いなしで一希の胸にしがみついている。脱力した一希の肉体は、良くできた操り人形のように力なく地面に横たわっていた。誰もそんな心路に声をかけられず、皆、しばらくの間そのまま二人を見守った。

一希の遺体は、一度日本大使館に引き取られ、数日後、来印した遺族の手に引き渡された。加害者のイスラエル人ディーラーは、取り押さえたインド人達の手によってそのまま警察に引き渡された。日本大使館は、目下インド政府に加害者の身柄引き渡しを要求中だそうだ。

智と心路の二人は、証人として何度か警察で証言を求められた。それは数日間の長きに及んだが、二人にとって身の回りで起っていくそれらの事務的な出来事は、まるで他人事のように現実味に乏しく、その長さなど実感する暇もないぐらい、ただただ毎日が機械的に過ぎていった。

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