ボーダー1

ネパール、カトマンズ。
アジア横断の旅を目指す旅行者が私に教えてくれた。
「インド、パキスタン間の国境は最悪らしいですよ」
どのように最悪かと聞くと、国境警備の係員に持ち金をだまし取られるという。  その後も、私は何度か同じ話を聞いた。
日本の場合、出入国の管理官が旅行者の財産を狙うことはあまりないが、アジアでは公務員の特権とばかりに、それを行う者は少なくない。

私は、昨晩宿が一緒だった日本人旅行者と、インドのアムリトサルからバスに乗って、パキスタンに向かうべく、国境へ向かった。
国境が開く時間より早く到着してしまったので、私たちは両替を済ませ、国境が開くまでジュースを飲みながら待つことにした。
国境が開いた。
私たちは国境ゲートへ向かう。
ゲートでパスポートチェックがある。
係員が私たちのパスポートを見ながら、用紙に何か書き込んでいる。
書き終わった彼は、私たちにこう言った。
「1人5ドルずつ払え」
きたな。
私たちには、その心構えができている。
「そんな必要はない」
「先に通った西洋人が払っているのを見ただろ」
と係員は言う。
「見ていない」
その横をインド人が、係員に金を渡し、通り抜けてゆく。
インド人のさくらだ。
「ほら、皆払うだろ」
という係員から、私たちはパスポートを取り戻し、次のチェックポイントへ向かう。  もちろん1ルピーも払わない。

次のチェックポイントは建物内で、出国に必要な用紙への記入と荷物検査、所持している外貨を用紙に記入と、まともであった。
米ドルと日本円を書き込んだ私は、係員に聞いた。
「パキスタンルピーは書くのか」
インドでは、インドルピーを国外に持ち出すのは禁じられているため、私たちは国境手前の両替所で、インドルピーをパキスタンルピーに両替している。
それを書く必要があるのか、と係員に尋ねると、その必要はないという。
私たちは、次のチェックポイントへ進んだ。

次のチェックポイントは何事もなく通れた。
問題があったのは、その次のチェックポイントだった。
屋外に一組の机と椅子があり、若い係員たちが大勢待ち構えている。
いかにも何かありそうだ。
外貨を記入した用紙を渡せというので、彼らにそれを渡す。
もったいぶった様子で、ひとりの男がその用紙を眺める。
「インドルピーを持っているか」
「持っていない」
もし持っていたら、ここで没収される。
「日本円と米ドルを持っているのか」
「持っている」
隠すことではない。
「パキスタンルピーは」
「持っている」
と言うと、係員はこう言った。
「それは問題だ。この用紙には書かれていない」
係員は私たちに、パキスタンルピーを没収する、と言う。

いとう某 22歳のとき初めて行った海外旅行で日本とは違う世界に衝撃を受ける。まだ見ぬ世界、自己の成長と可能性を求めて旅した国は、5年間で35ヶ国。思い出に残る旅はエヴェレストを見たヒマラヤトレッキング。

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