スペシャルプライス

「落ち着きなよ、マイフレンド、これは本当に上物なんだ、三グラムにしたって何が変わっていうんだ? 千ルピーぐらい、君達にとってはどうってことない額じゃないか。絶対に買っとくべきだよ」

直規は、無言でタンクトップを一瞥すると、溜め息まじりに心路に言った。

「心路、どうするよ? 三グラムだってよ。話がややこしくなってる。長くかかりそうだぜ」

少し考えてから心路は言った。

「じゃあ、三グラム買うとして、八百ぐらいまで負けさせるっていうのはどう? 俺と直規君で千二百ずつだったら金の方も何とかなるでしょ」

二人が日本語で話していると、シバがその会話に割って入った。

「彼がいるじゃないか、彼と君たちとでちょうど一グラムずつでいいじゃないか」

智の方を見ながらシバはそう言った。

「智はやんないんだよ。それよりも、三グラム買ってやるからグラム七百にしろよ、だったら買ってやるよ」

直規は、少し値段を下げて交渉を始めた。するとシバは、天を仰がんばかりに大袈裟に驚いてみせた。

「七百? 七百は無理だよ、だって三グラムで二千百ルピーだよ、本当ならグラム千五百で売ってるところをスペシャルプライスで千でいいって言ってるんだよ、間違っちゃあいけない」 
「でも、俺らは二グラムって言ったんだ、そこを折れて三グラム買うって言ってんだぜ、せめて八百にしろよ、そうしたら三グラムで二千四百、悪くないじゃないか」

しばらくそんな言い合いがシバと直規の間で続いた。しかしとうとうシバが折れたらしく、仕方ない、今回だけは特別に八百でいいよ、ということになった。

さすがに直規も疲れた様子で、煙草を一本取り出すと溜め息まじりに火をつけた。そしてゆっくりと煙を吐き出しながらシバに向かってこう言った。

「シバ、試させてくれよ」

シバは、直規の方を向いて少し考えてから、ああ、と言ってタンクトップに声をかけた。
タンクトップは、それに応じて紙包みを直規に手渡した。心路、何か持ってるか?、と直規が尋ねると、心路は、財布の中からクレジットカードを取り出した。直規は、心路の手からそれを受け取って紙包みの上に盛られた薄い茶色の粉をカードの角で少しすくった。そしてくわえていた煙草を灰皿に置いて左手の中指で片鼻を押さえながら、カードの上の粉の小山をゆっくりともう一方の鼻孔に近付け、それを一息に吸い込んだ。

直規の鼻の粘膜に異物が付着する。それは痛覚を刺激した。そしてじわじわと溶け始め、重力に従って直規の喉の奥の方へと鼻腔を通って下りていく。嫌な苦い味が、直規の味覚を刺激する。

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