誕生石の歴史

誕生石の起源

1年の12ヵ月に特定の宝石を配し、自分の生まれた月の宝石を身に着けるという誕生石の習慣は現在では広く浸透しています。
誕生石の起源は聖書の時代にまではるか遡ります。聖書には宝石についての記述が度々現れます。ユダヤ人が古代から宝石について関心を寄せ、特別視していたことが伺えます。
旧約聖書の「出エジプト記」には、モーゼの兄大祭司アロンが身に着ける胸当てに飾られる12個の宝石が主によって仰せられたと書かれています。
新約聖書の「ヨハネ黙示録」では、最後の審判の後に現れる新しい世界の都「新エルサレム」の城壁の土台石は12個の宝石で飾られていたと記載されています。

シリア、暮れなずむパルミラ遺跡

次に、金、青、紫、緋色の毛糸、および亜麻のより糸を使ってエフォドと同じように、意匠家の描いた模様の、裁きの胸当てを織りなさい。それは、縦横それぞれ一ゼレトの真四角なものとし、二重にする。それに宝石を四列に並べて付ける。

第一列 ルビー トパーズ エメラルド
第二列 ざくろ石 サファイア ジャスパー
第三列 オパール めのう 紫水晶
第四列 藍玉 ラピス・ラズリ 碧玉

これらの並べたものを金で縁取りする。これらの宝石はイスラエルの子らの名を表して十二個あり、それぞれの宝石には、十二部族に従ってそれぞれの名が印章に彫るように彫りつけられている。

出エジプト記 新共同訳28章17~21節

都は神の栄光に輝いていた。その輝きは、最高の宝石のようであり、透き通った碧玉のようであった。
都には、高い大きな城壁と十二の門があり、それらの門には十二人の天使がいて、名が刻みつけてあった。イスラエルの子らの十二部族の名であった。東に三つの門、北に三つの門、南に三つの門、西に三つの門があった。都の城壁には十二の土台があって、それには小羊の十二使徒の十二の名が刻みつけてあった。

都の城壁は碧玉で築かれ、都は透き通ったガラスのような純金であった。都の城壁の土台石は、あらゆる宝石で飾られていた。
第一の土台石は碧玉、第二はサファイア、第三はめのう、第四はエメラルド、 第五は赤縞めのう、第六は赤めのう、第七はかんらん石、第八は緑柱石、第九は黄玉、第十はひすい、第十一は青玉、第十二は紫水晶であった。

ヨハネ黙示録 新共同訳21章11~14節、18~20節
黙示録の獣、赤い龍 / The Beast of the Sea (Tapestry of the Apocalypse) - Wikipediaより

古代と現代の宝石名の違い

書にはこのように頻繁に宝石の名前が登場します。しかし、これらの宝石名は古代の宝石名と必ずしも一致するわけではありません。現代では鉱物上分別する宝石でも当時の世界では色彩と外観の相似などによって同一名で呼んだり、時代によって宝石名が変わったりしています。そのため当時の宝石が現代のどの宝石にあてはまるか見極めることは非常に困難です。

例えばルビーとはラテン語で赤を意味するルベウス(rybeus)が語源で、古代から中世にかけては赤い石の総称でした。英王室の至宝のひとつである「黒太子のルビー」は今日ルビーと呼ばれる鉱物ではなく、別種のスピネルです。

同じくサファイアもラテン語で青を意味する「sapphirus」が語源です。サファイアとルビーは色が異なるだけで同じコランダムと呼ばれる鉱物ですが、このことが明らかになったのは近年になってからです。旧世界のサファイアの産地はセイロン島で非常に希少であるため、聖書の時代にサファイアと呼ばれた石は当時一般的に知られていたラピスラズリであることは間違いないでしょう。

磨かれたラピスラズリの原石

ユダヤ人と宝石

古代、宝石を産する地は主にインドを中心とした東洋でした。東洋の宝石を西洋へ橋渡ししたのは聖書の時代から宝石に大きな関心を持ち続けたユダヤ人たちでした。
宝石は小さく携帯性に優れています。商売に長けたユダヤ人にとって少量でも巨富を産む宝石は交易には最適の品でした。また迫害の歴史を持つ彼らにとってはいつでも運び出せる資産価値のあるものでした。

ユダヤ人はイエス・キリストを十字架に磔つけた民族としてキリスト教世界のヨーロッパの中で忌み嫌われ、様々な迫害を受けてきました。十字軍によるユダヤ人虐殺[11~13世紀]、スペインにおけるユダヤ人追放令[15世紀]、イタリアでのユダヤ人隔離政策(ゲットー)[16世紀]などなど。政策が変わるたびにユダヤ人は追われ、安住の地を求めてさまよいました。

14世紀前半ポーランド。統一国家として回復したばかりの国を立て直すため、王侯貴族たちは国家の財政や所領経営などにユダヤ人を重用し保護しました。このユダヤ人に対する寛容的政策のため迫害から逃れてきたユダヤ人たちは大挙してポーランドに押し寄せました。17世紀半ばにはユダヤ人はポーランドの人口の10%にも及び、ユダヤ文化はこの地で大いに栄えました。

誕生石の習慣はこのような背景をもとに、ポーランドに移住したユダヤ人の手によって広められたと言われています。誕生石は当初その宝石が属する月にもっとも神秘的力が大きくなるというものだったようです。これだと宝石の力を1年を通じて享受するためには12種類の宝石を用意しなければならず、財力を必要としたため、次第にその人の誕生月に属する宝石を持つ事によっても同じ効果が得られるというように変化していきました。

18世紀末、戦争や内戦により国力の衰えたポーランドはロシア、プロイセン、オーストリアに分割されポーランドの名は地図上から姿を消しました。

ポーランドを飲み込んだ19世紀末のロシア。「ポグロム」と呼ばれる反ユダヤ暴動が各地で勃発、ユダヤ人の受難の時代が再び始まります。この災難から逃れるためにユダヤ人たちはロシアを脱出、新天地アメリカを目指しました。新大陸での生活のために携帯した宝石を手放すもの、それを買い取るもの、また宝石業に携わるものも多くいたでしょう。

第三次ポーランド分割地図(1795) / 1818 Pinkerton Map of Poland - Wikipediaより

誕生石の統一

1912年にアメリカの宝石業者の間で宝石の普及を目的に誕生石を統一することを決めました。それが次の表(アメリカ)です。

国別誕生石

日本※ アメリカ イギリス フランス
1月 ガーネット(柘榴石) ガーネット ガーネット ガーネット
2月 アメシスト(紫水晶) アメシスト アメシスト アメシスト
3月 アクアマリン※2
珊瑚
ブラッドストーン(血石)
アクアマリン
ブラッドストーン
アクアマリン
ルビー
4月 ダイヤモンド ダイヤモンド ダイヤモンド
水晶
ダイヤモンド
サファイア
5月 エメラルド
翡翠
エメラルド エメラルド エメラルド
6月 真珠 真珠
ムーンストーン
真珠
ムーンストーン
ホワイト・カルセドニー(白瑪瑙)
7月 ルビー ルビー ルビー カーネリアン(紅瑪瑙)
8月 サードニックス(紅縞瑪瑙) サードニックス
クリソライト(貴橄欖石)
サードニックス
ペリドット(緑柱石)
サードニックス
9月 サファイア サファイア サファイア
ラピスラズリ
ペリドット
10月 オパール
トルマリン
オパール
トルマリン
オパール パール
アクアマリン
11月 トパーズ トパーズ トパーズ トパーズ
12月 ターコイズ
ラピスラズリ
ターコイズ
ラピスラズリ
ターコイズ トルコ石
マラカイト(孔雀石)

日本 全国宝石商組合制定(1958年)
フランス ルイズ・タルク女史が制定
アメリカ 宝石小売商組合制定(1912年)
イギリス 貴金属商組合制定(1937年)
※現在の日本では6月の真珠の代わりにムーンストーン、8月のサードニックスの代わりにペリドット、11月のトパーズの代わりにシトリン(黄水晶)が用いられることが多い。

当時普及し始めてきたダイヤモンドが4月に選定されていますが、ラピスラズリは聖書に何度も登場するほど古代から有名な石にもかかわらず選ばれませんでした。今日宝石の王として疑いの余地のないダイヤモンドですが、近代になるまで宝石としての認知度は大変低いものでした。加工がその硬度ゆえに非常に困難であるのと、当時は産地がインドくらいで希少だったからです。ダイヤモンドが現在のようにこれほどポピュラーになるのは19世紀に入ってからです。

19世紀半ば、南アフリカでダイヤモンドの大鉱脈が発見されます。その埋蔵量はこれまでのものと比べものにならないほど膨大なものでした。ダイヤモンドの加工、販売、流通は古くからユダヤ人が一切を担っていました。ユダヤ系のロスチャイルド財閥に支援されたデビアス社は生産と供給をコントロールするためダイヤモンド鉱山の買収を進め、19世紀末には当時のダイヤモンド鉱山の9割を支配下に収めました。誕生石に新しい宝石であるダイヤモンドが加えられたのはこうした背景があったのです。
アメリカの誕生石を基準として各国も独自の誕生石を選定、日本では1958年に東洋七宝の珊瑚と翡翠を加えて日本の誕生石としました。

ブラジル産アメジスト原石

自然からの贈り物

今日の私たちは、宝石の持つ輝きや希少性を装飾品としてまたは財産として利用しています。しかし古代の人々は、この自然からの贈り物である宝石を神秘的な存在として超自然的な力を備えていると信じ、宝石を身に着けることは護身符的な役割を意味していました。世界各地で各々の宝石にまつわる伝説、物語は数知れません。
科学が高度に発達した今日、私たちは宝石がいくつかの元素からなる化合物であることを知っています。また宝石の持つ超自然的な力とは単なる迷信であり、非科学的であるとも理解しています。しかし、自然が産み出した輝きに感動を覚え、魅了されるのは古代人も現代人もあまり変わりないのかもしれません。

無処理・非加熱・天然色のブルートパーズ原石

誕生石の意味

誕生石 意味
1月 ガーネット 貞潔・友愛・忠実
2月 アメシスト 誠実・心の平和・注意心
3月 アクアマリン 平穏・勇気・聡明
珊瑚 幸福・長寿・知恵
ブラッドストーン 勇気・聡明
ルビー 愛・威厳
4月 ダイヤモンド 清浄無垢
水晶 願望成就
サファイア 誠実・徳望
5月 エメラルド 不滅・廉潔
翡翠 健康・長寿・福徳
6月 真珠 健康・長寿・富
ムーンストーン 幸福
ホワイト・カルセドニー 長寿、健康
7月 ルビー 愛・威厳・神力
カーネリアン 不幸の予防・深い友情・堅忍不抜・剛毅
8月 サードニックス 夫婦の幸福
クリソライト 心を喜ばせる
ぺリドット 夫婦の幸福・和合
9月 サファイア 誠実・徳望
ラピスラズリ 真実・誠実・天国
10月 オパール 希望・無邪気・純粋
トルマリン 寛大・忍耐・友情
真珠 健康・長寿・富
アクアマリン 平穏・勇気・聡明
11月 トパーズ 友好・愛・潔白・希望
12月 ターコイズ 成功・繁栄・霊の喜び
ラピスラズリ 真実・誠実・天国
マラカイト 計画の実現

参考文献
「宝石 神秘と伝統」 中村善吉
「聖書の鉱物誌」 島田 イク郎

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