05Apr10
夕食を終えて宿の従業員も眠りに着いた頃、安岡と智は、二人で蝋燭の灯った智の部屋
にいた。智は、蝋燭の明かりで手元を照らしながら丁寧にジョイントを巻いている。使っ
ているチャラスはマナリーのクリームだ。いきなり世界最高のチャラスを吸えるんだから、
安岡は幸せな奴だな、と心の中で智は思った。安岡は、智を質問攻めにしながら、喰い入
るように智の一挙手一投足を眺めている。
「へええ。そうやって巻くんすか。...
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10Apr10
「一ノ瀬さん、一ノ瀬さん! 一体どうしたんっすか? 急に電池が切れたみてぇに固ま
っちまって。早くやりましょうよ、その、チャラスってやつを!」
沈黙しながらぐるぐる考えを巡らしていた智は、安岡の野太い声で我に返った。
「ああ、ごめん、ごめん。ちょっと、ぼんやりしてた……」
智は、そう言うと巻きかけのジョイントを丁寧に仕上げていった。しかし、死体となっ
た一希の残像は、その後も智の頭の中から消え...
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15Apr10
智は、ああ、もちろん、と言って、灰皿の上に途中で消したまま置いてあったジョイン
トを手に取ると、再び火をつけて安岡に手渡した。安岡は、ありがとうっす、と言ってそ
れを受け取った。そしてぎこちない様子で大きな吸気音をたてながら深々と煙を吸い込む
と、改めて智の方に向き直ってゆっくりと話し始めた。
「自分、高校のときサッカーやってたんっすよ。結構強い学校で、県の大会でも常に上位
に喰い込んでいたような...
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20Apr10
「その後は随分と悩みました。あんなに好きだったサッカーもプレイはおろか、テレビで
の試合も見なくなりました。ボールを見るのも嫌になった程です。その後、何年もボール
に触れることはありませんでしたね。でも、幸い自分は周りの人間に恵まれていたんっす。
みんな辛抱強く自分のことを見守ってくれて……。だからそこまで自暴自棄になることも
なく、何とか立ち直ることができたんっすよ。いや、実際はかなり自暴自棄に...
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25Apr10
安岡は、少し照れくさそうに笑いながら、もう一度チャラスの煙を一口大きく吸い込んだ。そして目を閉じ、深呼吸するようにゆっくりと息を吐き出した。
「けど、それが良かったんすかね。それから自分の中で何かが変わったみたいで、もうそれまでのようにあいつのことで思い悩むこともそんなに無くなりました。それでしばらく
そうやってサッカーやってる内に、サッカーの教員になろうと思いついたんすよ。サッカークラブで子供達...
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30Apr10
「一ノ瀬さん、あの、自分、もう一つ思うことがあるんすけど……」
「えっ、何?」
智がそう聞き返すと、安岡はためらいがちにこう答えた。
「それは、欠けたものはもう戻らない、ってことなんすよ……」
安岡のその言葉を聞いたとき、智は少し胸騒ぎがするのを感じた。
「欠けたものは、戻らない……?」
「ええ。例えば、自分や智さんは大切な友達を失った訳じゃないですか。それっていうのは、心のどこかが欠けてい...
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