01Mar10
「ちょっ、シッ、シンジ、あれ……、見える? あいつが手に握っているもの……」
心路は、智の指差すその先を首を伸ばしながら眺めると、それに気が付いたらしく、あ
っ、と大きな声を上げた。
「あれ、ナイフじゃねえかよ! 一希は!? 大丈夫か!? カズキ!、カズキ!」
心路がそう叫ぶと同時に、一希は前のめりに倒れ込んだ。反復するトランスミュージッ
クの規則的なサウンドが、その動きのひとこまひとこまをな...
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05Mar10
「キヨシ、キヨシ……」
担架に乗せられた一希が、何度もうわ言のように清志の名前を呼んだ。
「一希! 喋るんじゃねえって! もう少しだから! 絶対助かるから! 頑張れ、頑張
れよ!」
心路は、泣きじゃくりながら血まみれの一希の手を握っている。担架を担いでいる者達
の足並みが次第に速くなっていく。揺れる懐中電灯の光が漆黒の森を白く照らしだす。
「キヨシ、ごめん、ごめん……」
カズキの腹部からの出...
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10Mar10
取り調べも終わり数日経ったある日、心路は、仁にタトゥーを彫ってもらっていた。ア
シッドペーパーから起こした「チェ・ゲバラ」の肖像を右肩に入れるのだ。タトゥーマシ
ンの金属的な連続音を聞きながら、ひたすらジョイントを吸って心路はその衝撃に耐えて
いた。
「やっぱ、あれか。これは一希のために入れるのか?」
マシンを使う手を休めて仁が心路にそう尋ねた。心路は、顔をしかめながらひたすらジ
ョイントを吹か...
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15Mar10
アムリトサルはシーク教の聖地である。シーク教徒にとって総本山となるゴールデンテ
ンプルと呼ばれる黄金の寺院のある街だ。街往く人々は、皆ターバンを巻き仰々しい髭を
蓄えている。いわゆる日本でのステレオタイプなインド人のイメージといったところだろ
うか。アムリトサルは更に国境の街でもある。バスで二三十分行った所にパキスタンとの
国境があり、そのすぐ向こうにはパキスタンの主要都市ラホールが控えている。パ...
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20Mar10
智は、アムリトサルに着いて二日目の夕方、この街のメインであるゴールデンテンプル
へ観光に行くことにした。ゲストハウスから歩いて二三十分の道のりは、賑やかなバザー
ルで埋め尽くされていた。マナリーやダラムサラなどの山間部とはまるで違った久しぶり
の街の熱気に、智は少々戸惑いを覚えた。山の中の静謐とした感じはまるでなく、あるの
は、猥雑とした人々の熱気ばかりだ。しかしその熱気は、デリーのものとは異なり...
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25Mar10
シーク教の歴史について全く無知だった智は、シーク教徒に対するそんな迫害があった
ことなど当然知らなかった。それで、写真に添えられていた英語表記の説明文を読んでみ
るとどうやらそれは、かつての宗主国であったイギリスが彼らに対する反対運動を起こし
たシーク教徒達に行った武力弾圧だったらしい。無抵抗、非武装だった市民に対し、一斉
機銃掃射を敢行したという。しかも直接手を下したのは英国人ではなく、同じくイ...
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30Mar10
宿に帰ると、パキスタンから渡って来た一人の日本人旅行者がチェックインしていた。
国境を越えて、初めて訪れるインドに入国したばかりなので、彼は少々興奮しているよう
だった。智の発するどんな言葉にも常に過剰な反応を示していた。
「そうなんっすよ! 国境ではかなり入念に荷物チェックを受けて、入国までに随分時間
がかかったっす!」
安岡というその青年は、流れる汗をタオルで拭き拭き興奮気味にそう言った。
...
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