ライター:さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

「サトシ、サトシ」
ウトウトしかけている智に、心路が、巻き上がったジョイントを差し出しながら声をか
けた。我に返って智はそれを受け取った。
「ああ、ごめんごめん。あんまり気持ち良かったんでつい……」
心路は、軽く智に微笑みかけた。
「しかし、あれだね。デリーではあんなに憎らしく思っていた太陽が、ここではこんなに
清々しいものに変わってしまうなんて。同じインドとは思えないよね。本当に」
そう言いながら智はジョイントに火をつけた。煙の作用が全身に広がって智の視界を歪
ませる。するとその歪んだ景色の奥から、金髪をくりくりにカールさせた背の高い欧米人
が、智の方へ近寄って、強いイギリス訛りの英語で智に向かってまくしたてた。
「この辺でトリップを見なかったか? 昨日ここで二つ落したんだけど……。君達見なか
ったか?」
智は、その問いの内容に少し戸惑いながらも、いいや、知らないよ、と首を振った。彼
はすかさず心路を見返したが、心路も同じように首を振ると、途端に落胆したような表情
で、智達の周りの芝生を這いつくばって探し始めた。しばらくそうしていたが、とても見
つからないと悟ると、彼は、ようやく立ち上がって残念そうに首を振り、名残惜しそうに
去っていった。彼の去った後、智と心路の二人はお互い顔を見合わせながら笑い合った。
「ハハハ、おかしいよね、あいつ。アシッドなんてこんな所で落して見つかる訳ないじゃ
ん。あんな小さなもの。しかも、昨日だなんて。ハハハハハ」
智がそう言うと、心路も笑いながら言った。
「クックック。かなりイッちゃってるよな、あいつ。きっとさっきも何かキマッてたんだ
ろうよ。それで昨日ここでアシッド落したことを思い出して、それが気になって気になっ
てしょうがなかったんだろ。ハハ」
二人がそうやって笑っている所へ、突然一希が顔を出した。
「ヤァ、何だよ二人とも。楽しそうじゃない」
心路は、笑いながら一希の方を振り返った。
「ああ、一希。来たのかよ。まあ、座りなよ」
一希は、椅子を引いて心路の横に腰を下ろした。
「何、どうしたの?」
「いや、ちょっとおかしな奴がいてさ」
心路は、一希にジョイントを渡しながらそう言った。一希は、それを受け取ると一服大
きく吸い込んで、一息に煙を吐き出しながら心路に尋ねた。
「おかしな奴って?」
笑いながら心路はそれに答える。
「ハハ、変な外人がさ、昨日ここでカミを落したんだけど見なかったか、とか言って俺達
に聞いてくんの、クッククク」
「へえ、それで?」
「それでって? ある訳ないじゃん、そんなの。こんな芝生の上だぜ?」
一希は、心路の話にあまり興味なさそうに頷くと、灰を芝生に落しながら智の頬を軽く
叩いた。
スティッキー・フィンガーズはある旅行者の実体験をもとにしたフィクションであり、ドラッグを推奨したり礼賛するものではありません。


