05Nov09
何も思い出すことのできない自分自身に、智は、呆れ返るようにぐったりと項垂れた。
「今日は何人かで来てたな。ババがもう一人と、あとはアナンの知り合いっぽいインド人
達が数人と。結構騒がしかったんだよ、店の中は」
「そうだったんですか……。そんな騒ぎにも全く気が付かずに、俺は意識を失っていたん
ですね。もうその人達は帰っちゃったんですか?」
智は、店の中を見渡しながらそう言った。店の中には岳志以外...
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10Nov09
「やっぱりそうやって色んな人の手に馴染んできたものだから、独特の風合いが出てるん
だろうな。そのチラムの美しさっていうのは、もちろん作った人の技術やセンスっていう
のもあるんだけど、それ以上に、そのチラム自身が歩んできた歴史的な要因が大きく作用
していると思うんだ。色んな人間の皮膚から滲み出る油が染み込んで、それが光沢に変わ
ったり、使い込むことによって徐々に手に馴染んだ形になっていったり……。要...
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15Nov09
智は、当初、手でカレーを食べるということに対してどうしても抵抗があった。日本食
で言うと寿司やおにぎりなどのように形の整ったものならまだしも、カレーのような非固
形物を手をスプーン代わりにして食べるのは、非合理だし、手がカレーまみれになって見
た目もあまりいいものとは言えない。食べにくいばかりでなく、非衛生的でもある。しか
しインドに長く滞在し徐々にインド文化に慣れていくに従って、今まで見えなかっ...
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20Nov09
「ババ、カレーに入ってるこのチキン、ババが持って来たの?」
ババは、もぐもぐと口を動かしながら、イエス、と言った。
「それってもしかして、昨日、俺がココナッツ買ったお金使って買って来たものなの?」
ババは再び、イエス、と頷いた。どうしてそんなことを聞くんだ?、というような表情
で智の顔を眺めている。智は更に尋ねた。
「せっかく稼いだお金なのに、どうして全部使っちゃうのさ? チキン一羽買ったら...
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25Nov09
皆がカレーを食べ終わった頃、一斉にボンが始まった。あちこちでジョイントが巻かれ、
岳志のクリスタルのチラムと智のイタリアンチラムは、人々の間をフル稼働で駆け巡った。
次から次へと回ってくるチラムやジョイントを吸い続け、智の意識は、次第に曖昧になっ
ていく……。
智の斜め前にある長椅子に座った思慮深げな表情をしたインド人男性が、眉間に皺を寄
せながらジョイントを巻いている。その手付きはとても鮮やか...
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30Nov09
自分の隣に座っている男から智がチラムを受け取っていると、突然大声でババがアナン
を呼んだ。
「アナン、ウナ・ナンバルワンを持って来てくれ!」
ババは、いかにもインド人らしく、ナンバーワンのアールの部分を強調して、ナンバル
ワン、と発音し、岳志の言っていた例のインチキ臭いウィスキーをアナンに催促した。ア
ナンは、OK、ババジ、とそれに答えると、ウナ・ナンバーワンのボトルを三本、テーブ
ルの上に運ん...
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