05Oct09
岳志は、もう一服深く煙を吸い込んだ。そして目を閉じると、しばらくその煙を肺に留
めた。智は、息を呑んで話の続きを待っている。
「病院の先生によると、俺は、大変危険な状態だったのだが、病院に運び込まれたのが早
かったので奇跡的に一命を取り留めることができたらしい。後一歩遅かったらどうなって
いたか分からないということだった。話によると、俺に注射を打ったパキスタン人は、俺
が倒れた途端さっさと行方をく...
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10Oct09
岳志が俯きながらそう言うのに、智は何も声をかけることができなかった。何て言えば
良いのか分からなかったのだ。ただ、何故この話を岳志が今したのかが、何となく分かっ
たような気はした。
「だから、俺は何とかして罪滅しがしたいんだよ。俺を助けてくれたことによって人生を
台無しにしてしまったアナンに対して。一生をかけてでも償いたいと思う。下らない俺の
虚栄心や行動が、アナンとプレマの人生を台無しにしてしま...
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15Oct09
智は、岳志のその話を聞きながら、誰かも以前、同じような話を自分にしていたのを思
い出した。それは建だった。デリーのゲストハウスの屋上で智と谷部を前にして、建がと
うとうと自分の昔のことを話していた時のことだった。確か建は、お婆さんに命を救われ
たというようなことを言っていた。
智の中で二人の話が何となく重なり合い、智は、その偶然性を不思議に思った。そして
建の話を聞いていた時と同じように、今回も...
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20Oct09
智は、真っ白な世界にただ一人立っていた。自分の周りには、子供用の木製の積み木が
まるでたった今まで誰かがそれで遊んでいたかのように、乱雑に散らかされている。智は、
その一つを拾い上げてみた。するとその途端、その、青い三角形の積み木は、砂のように
崩れ落ち、さらさらと智の指の間からこぼれていった。驚いて顔をあげると、風景は、夕
暮れの公園に変わっていた。どこからか、練習中のピアノの拙い旋律が微かに聞...
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25Oct09
――― 俺は、あの場面を憶えている! あの後買ってもらったチョコレートケーキも!
確かあの頃近所にできたばかりのケーキ屋さんで、あのとき初めて買ってもらったんだ。
そしたらそれが凄くおいしくって、俺はえらく気に入ってしまって……。俺の喜ぶその様
子を見た婆ちゃんは、それからことあるごとにそのチョコレートケーキを買ってきてくれ
るようになって……。それ以来俺の大好物になったんだけど、その後、高校...
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30Oct09
「ハハハ、食べてたじゃない。俺も。何、何にも憶えてないの? そうとうブッ飛んでた
みたいだね。俺も智と一緒に食べてて、智は、俺が食べてる間中、これ、おいしいですね、
って何度も俺に言い続けてたよ。ハハハ。俺も智ほどじゃないけど、相当飛んでたよ。よ
うやく今落ち着いてきた所さ。効きが長いからね。腹に入れると」
「何だ、そうだったんですか。しかし、俺、ひどいですね。岳志さんにそうやって言って
たことす...
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