HOMEライブラリスティッキー・フィンガーズガンジャ入りのケーキ
30Aug09

ライター:さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

さとうりゅうたの行路

「何だか不思議な所ですね。マナリーやマニカランという町は」
 独り言を言うように智はそう言った。ちらっと智の方を見て、何も言わずに岳志は微笑
んだ。すると突然何かを思い出したように岳志がポンッと手を打った。
「そうだ! そう言えば俺、アナンにスペースケーキ作ってくれるように頼んだんだよ。
安いチャラス、ワントラ分買ってさ。明日焼いてくれるって言ってたから食べに行こう
な!」
「スペースケーキって、ガンジャ入りのケーキのことですか?」
「そうそう。食べたことある?」
「いえ。ないです。バラナシでバングラッシーなら飲んだことがありますけど……」
「それと似たようなもんだよ。だけど明日はチャラスを使うから、またちょっと違ったト
ビ方になるだろうけど」
 興奮した様子で岳志はそう言った。
「まあ、楽しみにしててよ」
「はあ……」
 智は、少し不安な様子で頷いた。マニカランに来て岳志と一緒に行動するようになって
からと言うもの、シラフでいる時間が殆どなくなっているような気がする。いつでもどこ
でも時間さえあれば岳志はジョイントを巻き始めるし、大抵、智は、岳志と一緒にいるの
で彼と同じだけやっていることになる。今日はマッシュルームまで食べてしまった。明日
はスペースケーキだという。そんなに色んなものを毎日やって、果たして自分は大丈夫だ
ろうか、おかしくなってしまわないだろうかと不安に思う。しかしそんな気持ちとは裏腹
に、何かの作用で酔っぱらっているとこの町はとても居心地がいいのだ。今日の昼間、マ
ッシュルームを探して山の中を歩き回った時のように、自然全体が自分に語りかけてくる
のが感じられる。体中に染み込んで行くように、緑や空の美しさが実感として感じられる
のだ。体中の感覚が解放されていくような気持ち良さが得られ、まるでデリーにいた時の
ような鬱屈した感情が嘘のように思える。そういう意味において、この土地は本当に「天
上の地」だった。だから、その状態をもっと味わっていたいという気持ちの方が最終的に
は勝ってしまい、ついつい何らかのドラッグを摂取することになってしまう。智は、一日
の殆どの時間がキマッている状態だったので、普段の自分の状態がシラフなのかそうでな
いのか、もはや区別が付かなくなっていた。なので、もうどうでもいいや、と半ばヤケに
なって、それは楽しみですね!、と、岳志に向かって大きな声でそう言った。心のどこか
で感じている不安など、もう、どうでも良くなっていたのだ。
 智のその言葉を聞くと、岳志は嬉しそうににっこりと微笑んだ。智は、岳志のその微笑
み方を見たとき、ああ、この人は本当にガンジャが好きなんだなあ、と確信せずにはいら
れなかった。そして、自分と岳志との違いを痛感した。

スティッキー・フィンガーズはある旅行者の実体験をもとにしたフィクションであり、ドラッグを推奨したり礼賛するものではありません。

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