05Jul09
右手の親指を突き立ててアナンがそう言った。智は微笑んでそれに応えた。
「サトシ。これ吸っちゃったらさ、キノコ採りにいかない?」
もう殆ど終わりかけのジョイントを智に手渡しながら、唐突に岳志がそう言った。突然
の岳志のその言葉に、智はちょっと面喰らった。
「へ? キノコ? キノコなんか採ってどうするんですか? 晩ごはんのおかずにでもす
るんですか?」
「ハハハ、何言ってんだよ。キノコって言っても、...
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10Jul09
「こんなの一つぐらい、どうってことないよ。試しに食べてごらんよ」
アナンもニコニコしながら智の方を見つめている。
「そうですか……。じゃあ……」
智は、アナンの手から一つそれを手に取ると口の中に放り込んだ。そして乾燥してシャ
キシャキとした歯ごたえを確かめるように噛み続けていると、しだいに強い苦味が智の口
の中いっぱいに広がった。
「うわっ、これ、苦いですね!」
智が顔をしかめながらそう言う...
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15Jul09
ゴツゴツとした岩肌が、自らを覆う氷の岩石を砕かんばかりに雪を侵食し続けている。
その光に吸い寄せられるように智はいつまでもそれを眺め続けた。しばらくすると周りの
景色は全て消え去り、世界は、智とその雪山の二つだけとなっていた。まるですぐ目の前
に山がそびえ立っているようであり、氷河に走る亀裂の一本一本を、智は、はっきりと目
視することができた。更には、そこに積もっている雪の一粒一粒までもが、冷たい...
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20Jul09
智は、勢い良く煙を吐き出した。そして新鮮で冷たい山の空気を再び胸いっぱいに吸い
込み目を閉じた。光の残像が、目蓋の裏側に絡み合うようにいくつも残される。智は、そ
れに翻弄されながらフラフラと岳志の所へジョイントを渡しに行った。
「大丈夫かよ、智?」
智のその様子を見ながら岳志が心配そうに声をかけた。
「ええ、大丈夫です……。けど、ヤバいですね、これはちょっと。キマり過ぎていること
は確かです」...
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25Jul09
アナンを先頭に三人が歩いて行く道のりは、だんだんと険しいものになっていった。来
た道から戻るのでなくわざわざ違う道から帰るのは、ぐるりと山を一周回るようにして帰
った方が早いから、というのがアナンの言い分だった。智達はキノコを探していたため、
ここまで来た道のりは、かなりあちこちに迂回していたのだ。だから違う道から帰るとい
うのはもっともな理由なのだろうが、智達が今歩いているこの道は、ちゃんとした...
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30Jul09
――― 一体、アナンの人生には今まで何があったのだろう? ―――
智は思った。
――― 岳志は、最初に触れて以来決して刑務所の話には触れようとはしないが、やは
り、それが彼の孤独の原因なのだろうか。一体アナンは何を見てきたというのだろう……。
プレマはプレマで、そんなアナンの暗闇には全く気が付いていないように、いつも満面の
笑みを浮かべながらとても元気にアナンに接している。彼女はまる...
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