05May09
山での彼女達の過酷な生活を智は想像した。今の時期は涼しくてとても過ごしやすい気
候だが、この短い夏が終わればすぐに冬が来て、それこそ命がけのような日常が始まるの
だろう。自分のようななまくらな人間が、このような厳しい環境での暮らしのいい所だけ
を金に物を言わせて楽しんでいくのが、智には随分卑怯なことのように感じられた。しか
し、よくよく考えてみるとそれは、智だけに限ったことではなく、全ての旅人達に...
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10May09
智の座っているすぐ横には窓があり、そこから外を眺めると、この小屋が谷の斜面の上
に建てられていることが分かる。すぐ真下は急な坂になっていて、それを下っていくと川
が結構激しい勢いで流れている。大きな岩がごつごつとあちらこちらに散在し、ここが川
の上流であるということを物語っていた。
この川を下っていけばどこかでガンガーに繋がっているのかな、智は何となくそんな風
に想像してみた。
「あっ、アナンが...
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15May09
「アナン、気持ちはありがたいんだけど、ちょっと他を探すことにするよ。まだそんなに
ツーリストが来てる訳でもなさそうだから、宿も空いてるだろう?」
岳志がそう言うと、アナンは、途端に悲しそうな顔をして、ホワイ?、ホワイ・ノット?、
と大きな声で叫びながら両手を広げた。
「どうして? 今は少しごちゃごちゃしてるけど、こんなのすぐに片付けられるよ。ここ
に泊まっていけばいいじゃないか」
「いや、そうじ...
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20May09
智は、何故、信心深いチベットの民衆やヒンドゥーの修行僧達が身を危険に晒してまで
聖なる地を目指すのかが、何となく分かるような気がした。恐らく智も、彼ら同様、何か
の存在を感じとっている。その何かとは、橋の下を流れる激しい川の流れや、パールバテ
ィ・バレイと呼ばれるこの谷を形作っている緑の生い茂る深い山々、更にはその向こうで
鋭い輝きを放ち続ける鋭利なヒマラヤの氷河など、それら全てにわたってあまねく...
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25May09
岳志の提案に、曖昧な調子で智は頷いた。智は、山登りなどはあまり好きではなく、む
しろ温泉に浸かってのんびり景色でも眺めている方が性に合っているのだ。
しばらくぼんやりとレストランで時間を潰していると、ゲストハウスの従業員が、部屋
が空いたということを二人に伝えに来た。案内されたその部屋は、空く予定だった筈の景
色のいい三階の部屋ではなく、二部屋とも、一階の隅の方のいかにも日当たりの悪そうな
部屋...
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30May09
ぼんやりとそんなことを考えながら、智は、後で岳志とマニカラン・コーヒーショップ
で落ち合う約束をし、一旦別れてそれぞれの部屋へと入っていった。どうやら岳志は、一
人の時間を過ごしたいタイプのようだった。どうも、誰かと長く一緒にいると落ち着かな
いらしい。智は、マナリーからマニカランまでの道のりで薄々それを感じとっていた。だ
から部屋もシェアするのではなく、わざわざ別々に取ったのだ。
部屋の中は思...
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