ライター:さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

――― 昼頃、智は、アリに会いにカフェへと向かった。アリは、相変わらず仕事をす
る風もなく、ただボーッと、特大のジョイントを吹かしながら店のテーブルに腰掛けてい
た。智が声をかけると、アア、サトシサン、と智の方を振り返った。
「サトシサン、ダイジョブダッタ?」
アリは、とろんとした目で智を見つめる。
「大丈夫じゃなかったよ、まったく」
アリは、ホワイ?、と言って両手を広げる。
「ケタミンって、あんなに効くものなの? 滅茶苦茶ブッ飛んじまったよ……」
智がそう言うと、アリは、きょとんとした表情で智を見つめながら言った。
「ホワイ? そんなことないと思うけど……。ワタシはいつも吸ってるからかな?」
そう言うとアリは、手に持ったジョイントを智に差し出した。智は一瞬身を引いた。
「それ、普通のジョイント?」
「イエス、イエス、ノー・プロブレム。ダイジョブ、ダイジョブ、モンダイナイヨ」
智は、慎重にそれを受け取ると、確認するようにそれをジロジロと見回した。
「ダイジョブヨ、サトシサン」
アリの方を怪訝な表情でちらっと伺いながら、智はジョイントを吸った。巻き方が太い
ので大量の煙が入り込んでくる。思わずむせ返りながら智はもう一度アリにそれを手渡し
た。アリが心配そうに智の顔を覗き込んだが、智は心配ないという風に手を振った。実際
このジョイントは普通のチャラスだったようだ。
咳が収まると、智はアリに言った。
「そう言えばさ、アリ、俺、この間のチャイのお金払ってなかったよね。返しとくよ、ほ
ら」
そう言って智が十ルピー札をテーブルに置くと、アリは、慌てて、ノーノー、と言いな
がら智の手にそれを返した。
「いいですよ、サトシサン。あんなことになってしまったんだから、ワタシの奢りです。
気にしないで下さい」
智が何度渡そうとしてもアリは頑なにそれを受け取ろうとしないので、智は、礼を言い
ながら手の中の五ルピー札をポケットに仕舞い込んだ。
「本当にいいんですよ、サトシサン。気にしないで」
智は、もう一度礼を言うと、改めてチャイを注文した。アリは、OK、とそれに応えて
智にジョイントを手渡すと、キッチンの中へと消えていった。
相変わらずカフェではトランスミュージックが大音量で響き、店内は、真っ青に塗られ
た壁やテーブルによって、真っ昼間だというのにどこか薄暗い。天井からは、奇妙な形を
した蛍光色のオブジェがいくつもぶら下がっており、それらはブラックライトに照らされ
てぼんやりと淡い輝きを放っている。
スティッキー・フィンガーズはある旅行者の実体験をもとにしたフィクションであり、ドラッグを推奨したり礼賛するものではありません。


