01Mar09
アリの鼻と口からもうもうと煙が吐き出される。アリは、目をしばたかせながら智にジ
ョイントを手渡した。それを受け取ると智は大きく煙を吸い込んだ。
最近はヘロインばかり吸っていて、ほとんどチャラスをやることがなかったからか、そ
のひと吸いは極端に智の脳を刺激した。途端に目の前のチャイのグラスが歪み、青く塗ら
れた壁が流動し始める。まるでLSDをやったときのようだ。智は、思わずぐったりとテ
ーブルに体...
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05Mar09
やっとの思いで部屋に辿り着くと智は、世界が自分を追って外から迫って来るのを何と
か部屋の壁や扉で遮断しようと、扉という扉や窓という窓を閉め切り、片っ端から鍵をか
け始めた。そしてカーテンを引いて、完全に外から部屋の中が見えないようにすると、ベ
ッドの上に倒れ込み体を丸めてひたすら目を閉じた。すると様々な風景が、まるでスライ
ドフィルムを映していくように目蓋の裏側に次々と浮かび上がってくる。それらは...
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10Mar09
智は、右手の人差し指の爪を立て、左手の手首の内側の血管の浮き出ているところを、
水平になぞった。皮膚には、軽い痛みと、血管を寸断するように一本の赤い筋が残された。
そして、ナイフの入っているバックパックのポケットに目をやった。するとその時、ふと
ある光景を思い出した。この光景は、智が初めてLSDをやった時とまるで同じものだっ
た。バックパックのポケットを眺める智の視線は、あの時と全く同じものだった...
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15Mar09
直規の声がいつまでも頭の中で反響し続ける。
智は、ふと我に返って、ナイフを放り出した。そして冷静に自分のやろうとしていたこ
とを振り返った。
――― 駄目だよ、俺のやろうとしていたことは、まるで自殺そのものじゃないか。こ
んなところで、手首を切るつもりだったのか。そんな、死んじゃうよ、そんなことしたら、
俺、死んじゃうよ。死んでしまったら、もう、日本にも帰れない。母さんにも会えない。
友達に...
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20Mar09
数時間後、夜が明けた。小鳥のさえずる声と、カーテンの隙間から洩れてくるかすかな
日光が、智に朝の到来を告げていた。智は、もう怖くはなかった。すっくと立ち上がると、
勢い良くカーテンを開けた。
冷え切った窓ガラスの向こうには、未だ完全に明けやらぬ夜のとばりがここそこに残さ
れ、弱々しい朝の光が、か細く辺りを照していた。しかし、しばらく見ていると、みるみ
るうちに景色が金色に輝き始めた。夜露に濡れた...
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25Mar09
まるで自分が地球と一体になったような感覚。全ての物はひとつの所から発し、そして
また、ひとつの所へ帰っていくという永劫の輪廻。自分の属する国や社会、世間、更には、
人間という範疇からも解放された完全に自由な状態。自分と異なるあらゆる物を理解し、
お互いを認め合う。自分との違いをそれらとの差として差別するのではなく、ただ、違い
として認識し合う。そこには最早、憎しみも争いも生まれない。あらゆる種類の...
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30Mar09
――― 昼頃、智は、アリに会いにカフェへと向かった。アリは、相変わらず仕事をす
る風もなく、ただボーッと、特大のジョイントを吹かしながら店のテーブルに腰掛けてい
た。智が声をかけると、アア、サトシサン、と智の方を振り返った。
「サトシサン、ダイジョブダッタ?」
アリは、とろんとした目で智を見つめる。
「大丈夫じゃなかったよ、まったく」
アリは、ホワイ?、と言って両手を広げる。
「ケタミンって、...
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