HOMEライブラリスティッキー・フィンガーズ残虐な性格の持ち主
30Oct08

ライター:さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

さとうりゅうたの行路

「い、いったい、それは何してるの? 俺と別れてから今まで、ずっとそうしてたの?」
 直規は、リムカの瓶を置いてそれに答えた。
「ああ、こいつら二度と俺達に逆らわないようにな、徹底的に恐怖心を与えてやるんだよ。
ここに連れてきて、早速"カミ"喰わせてやった。随分嫌がったけど、ぶん殴ったらあっ
さり言うこと聞いたよ。そしたら二人ともどうやら、カミ喰うの初めてだったみたいで、
効いてきたらガタガタガタガタ震え始めてさ。すっげえ怯えた表情しやがるから服脱がせ
て縛ってやったんだよ。そしたら最初の内は滅茶苦茶暴れてたけど、ようやく観念したら
しく、今じゃあこの通りさ。なかなか使い心地いいぜ、こいつら」
 そう言うと直規は、足でヤスを小突いて智の方に顔を向けさせた。今まで気が付かなか
ったが、ヤスは猿ぐつわを噛まされていた。白目を剥いて涎を流し、声にならない嗚咽を
洩らしながら、小刻みに体を震わせている。ゲンも全く同じ状態だった。
 それを見て智は吐き気を覚えた。胃の中の物が溢れそうで、慌てて口を押さえた。
「あのさ、直規、それ、大丈夫なの? 死んだりしない?」
「ハハハ、大丈夫だよ。怪我だって別に大したことないし、喰わせたアシッドだって軽い
やつを四分の一だけだぜ。ただ、すっげぇバッドな世界へ行ってるとは思うけどな。ハハ
ハハハ」
 智は、何となくヤスとゲンがどんな世界を見ているのかが想像できるような気がした。
考えたくもない。アシッドでは智も散々辛い目を見てきたため、それがどのぐらいひどい
状態なのかは何となく分かるのだ。しかし二人の今の状況は、智のそんな経験よりも遥か
に悲惨なものなのだろう。
 智は、何となく直規と心路の二人にはついていけないと思った。自分と彼らとの間には、
決して分かり合えない壁のあることを認識した。いくら奴らが憎いとはいえ、自分はこん
な真似はとてもできない。それは、確かだ。
「でも、そこまでやることもないんじゃないのかなあ……」
 智は控えめにそう言った。すると直規は、なおも微笑みを浮かべながら智にこう言い返
した。
「智、あのな、こういう奴らは徹底的にやっとかないと後が面倒臭いんだよ。ちょっとで
も手加減なんかしたら、つけあがってまた同じようなことしてくるぜ。智との間に何があ
ったかは良く知らないけど、智だってあれだけひどくやられてたんだ。あの時俺らが来な
かったら、ヤバかったぜ。下手したら死んでたかもよ。こっちの豚が、あの勢いのまま智
のこと殴りつけてたら、本当、どうなってたか分かんないぜ」
 直規は、そう言うと心路の足の下のゲンの脇腹を思い切り蹴飛ばした。ゲンは、グゥエ
ッ、という音を発して首を振って悶え、その体の振動で足を載せていた心路が少しよろめ
いた。心路は、てめえ、静かにしてろよ、とゲンの頭を踏みつけた。あの温厚そうな心路
までもがこんなにも残虐な性格の持ち主だったとは想像もつかず、智はかなりショックを
受けた。
「まあ、そうだけどさ……。でも、もし、俺の為にそうしてるんだったら、もう、勘弁し
てあげてくれないかな。確かに、俺もそいつらのことは凄くムカついてたんだけど、そこ
までされると俺の方が何だか辛くなってくるよ。だからさ、もう、許してあげてよ」
 智は直規と心路に懇願する。

スティッキー・フィンガーズはある旅行者の実体験をもとにしたフィクションであり、ドラッグを推奨したり礼賛するものではありません。

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