Apr25
嫌な思い出
智は、あいててて、と頭を押さえながらベッドの上の幸恵を見上げた。床に転がったお
かげで、全身砂まみれになっている。見上げた幸恵は、小窓から差し込む強烈な日光を背
負っていてとても眩しく、智は直視することができなかった。幸恵から必死で目を背けて
いる智のその様子が、より一層、智を惨めで卑小なものに見せていた。
「大丈夫ですか?」
警戒しながら幸恵は智にそう尋ねた。智は、手の平で日光を遮りながらそれに答えた。
「ああ、大丈夫だよ……。ごめん、幸恵ちゃん、俺、何だか変な気分になって、つい……」
「ひどいですよ、智さん。突然あんなことするなんて。私、ショックです」
さっき大声を出したせいか、幸恵の声は少し嗄れている。幸恵は軽く咳払いをした。智
は、怯えた小動物のように卑屈な目で再び幸恵を見上げた。
「ごめん、本当に……。もうしないから……」
「本当ですよ。約束ですからね。私、せっかく智さんと出会えて良かったなと思っていた
のに、こんなことで幻滅して嫌な思い出にするのは嫌なんです。だから、本当にもうしな
いで下さい。絶対ですよ」
髪の乱れを直しながら幸恵は智にそう言った。智は、心底恐縮しながら頷いた。恥ずか
しさでまともに幸恵の顔が見られない。
「智さん、ほら、もう立って下さいよ。そんなとこに座っていないで」
幸恵は、そう言うと智の手を取って立ち上がらせた。そして智の砂まみれの体に付いた
砂を手で払った。
「ああ、ごめん、幸恵ちゃん。もういいよ。自分でできるから」
智は、部屋の外へ出てTシャツやジーンズに付いた砂を丁寧に払った。そうしていると
何だか自分が物凄く惨めなものに思われてきて、涙がこぼれ落ちそうになった。
「サトシ、何してんだよ」
唐突に、誰かが智を呼ぶ声がした。建だった。焦った智は慌てて平静を取り繕うと、あ
あ、建さん、どうしたんですか? と言った。
「どうって、暇だったからいるかな、と思って見に来たんだよ。晩飯喰いに行くだろ?」
「ええ、でも……、まだちょっと早いじゃないですか」
「何だよ、いいだろ。何か都合悪いことでもあるのかよ」
そう言いながら建は智の部屋の中を窺い見るように覗き込んだ。
「何? 誰かいるの?」
スティッキー・フィンガーズはある旅行者の実体験をもとにしたフィクションであり、ドラッグを推奨したり礼賛するものではありません。