Apr15
写真
智は、少しの間考えてから口を開いた。
「そうだな……。何となくなら、分かるような気がするよ。それは……、例えばバラナシ
にいた時にガートでさ、人を火葬している所を見たんだよ。実際に見る前は、やっぱりさ
ぞかしグロテスクで恐ろしいものなんだろうなと思っていたんだけど、実際見てみたらそ
うでもなかったんだ。積み上げられた薪の間から炎に包まれた人の頭が覗いていて、それ
が脱力した感じで、ダラッと下に垂れ下がる。それを死体を焼いている人達が、棒で突つ
いて中に押し込んで……。そんなのが普通に行われていたんだ。話で聞くと何だか物凄い
ことのように思えるけど、もっと普通で、何でもない、当たり前のことのように感じた。
だから、人が犬に喰われている光景というのも、何となくそれに近いものなんじゃないの
かなと思うんだ」
「成る程……。そういうことなのかも知れませんね。そういえば私も、おばあちゃんのお
葬式の時、棺桶の中に入っているおばあちゃんの死に顔を見て、何て静かなんだろうって
思ったんです。何もかもが静止した感じというか。辛いとか、悲しいとかそんなことじゃ
なくって、ただ、何もかも停止していて、とても静かな感じ。上手く言えないけれど、人
の死体っていうのは想像するのと違って、全然グロテスクでも怖いものでもなく、もっと
静かなものなんだなって思いました。何か変な言い方ですけれど……」
「静かなもの、か……。でも、そう言われてみればそういう感じだったかもしれない。何
の力も入っていない、一切が停止した感じ……」
智は、再び扉の落書きに目をやった。
――― メメント・モリ、か……。これをここに書いた日本人は、何を思ってこの言葉
を残していったのだろう。書き殴ったような、こんなにも荒々しい書き方で…… ―――
智は、しばらくの間黙って考え込んでいたが気を取り直して幸恵に言った。
「ありがとう、幸恵ちゃん。俺、ずっとこの言葉が気になっていたんだよ。おかげでちょ
っとすっきりしたような気がする」
「いいんですよ、そんな。それより写真を見ることにしませんか? 私、智さんの写真が
見たいです」
「ああ、そうだったね。ごめんごめん。写真を見るんだったよね。忘れてた」
智は、そう言いながらベッドの端の方に移動して、立っている幸恵に腰かけるように促
した。幸恵は、はい、と言ってそこに腰かけた。幸恵の体の重みでベッドのマットが少し
沈んだ。智が写真の束を幸恵に手渡すと、幸恵は、こんなにたくさんあるんですか、と驚
いた。驚きながらも幸恵は、写真の入ったいくつかの袋から適当に一つを選び出すと、一
枚ずつ写真を取り出していった。
スティッキー・フィンガーズはある旅行者の実体験をもとにしたフィクションであり、ドラッグを推奨したり礼賛するものではありません。