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Apr05

何をしていた?

「この人達、何してるんですか……?」
 幸恵は、きょとんとした表情で、呆気にとられながらそう言った。
「ハハハ、何って、何してるんだろうね? きっとみんな旅人だから旅の途中だと思うん
だけど、ハハハハハ」
「それはそうですけど……」
「みんな、長くここにいる人達ばっかりなんだよ。上の方の階になればなる程、一体何し
てるのか分からない人が多いよ。中には何ヶ月、って人もいるんじゃないのかな」
「何ヶ月……。そんなにも一体ここで何をするんですか?」
「さあ、分からない。はっきりとは分からないけど、多分みんな疲れてると思うんだよ。
それは肉体的な面ばかりでなく、精神的にも。長く旅行してると、どうしても足が前に進
まないってことがあるんだよ」
「智さんもそうなんですか?」
「俺にもあったよ、そういう時は。一ヶ月、二ヶ月いた町だってある」
「一体そんなにも長い間、何をしていたんですか?」
「そうだね、俺の場合は大体誰かと一緒にいることが多い。どこの町にも日本人の集まる
宿というのはあって、そこへ行けば誰かいるからね。気の合う奴らがいたらついつい長居
してしまうこともある」
「その人達もみんな一人で旅をしてるんですか?」
「ああ、一人とか、二人とか、そんな奴ばかりだよ。何だかんだ言って、きっとみんな寂
しいんだろうね。いくら一人旅だって言っても、なかなか一人にはなりきれないものだよ」    
 幸恵は、神妙な面持ちで智の話を聞いている。
「さあ、着いたよ。ここが俺の部屋だ」
 そう言って智は、扉にかかっている南京錠に鍵を差し入れて外し、ドアのノブを捻った。
すると部屋の中を見るなり、幸恵は叫んだ。
「わあ、凄い部屋!」
 幸恵は、一歩部屋の中に入り込んで、内部をくまなく眺めまわしている。
「まるで、蔵前仁一の"ゴーゴー・インド"に出てくるみたいな部屋ですね。私、何だか
感激しちゃいました」
「ハハハ、そんなに驚くことじゃないよ。インドの安宿なんて、みんなこんなもんさ」
 智は、手に持っている写真の入った手提げ袋を、ベッドの上に放った。
「まあ、座ってよ。ちょっと片付けるからさ」
 智は、辺りに散らかっている物を乱雑にバックパックの中に詰め込んだ。幸恵は、お邪
魔します、と言って、ベッドの上に腰かける。そして智が扉を閉めると、幸恵は、その裏
側に書かれたたくさんの落書きに目を奪われた。
「わあっ、何なんです、これ? 落書きだらけですよ」

スティッキー・フィンガーズはある旅行者の実体験をもとにしたフィクションであり、ドラッグを推奨したり礼賛するものではありません。

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