01Mar08
ノートには様々な旅行者達がそれまでの自分達の旅の軌跡を綴っていた。どこどこの町
の何々という宿は良かったですよ、だとか、何々というレストランの何々はとてもおいし
いですよ、だとか、こういったノートは、旅の要所要所日本人旅行者の集まる場所には必
ず置いてある。書かれている情報に関しては、実際役に立つ情報もあるし、その時の自分
の心境を述べただけの、全く実用性の無い落書きみたいなものもある。割合的には...
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05Mar08
智は、差し出された手を握り返した。少し小太りな彼女の、つるりとした手の平は、ぽ
っちゃりとしていてとても柔らかかった。智が手を握ると、彼女はにっこりと微笑んだ。
微笑むと、彼女の目はそのふっくらとした丸顔の中に細い線となって消えていく。何か憎
めない子だな、と智は思った。
ウェイターが幸恵の所に注文を取りに来た。幸恵はガーリックステーキを注文した。ゴ
ールデン・カフェでは有名なメニューだ。長くイ...
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10Mar08
「俺もね、旅をしたての頃はそんな風に思ってたんだけど、実際し始めてみると、どうっ
てことないよ。長旅なんて思ってる程大したことじゃない」
「でもやっぱり凄いと思いますよ。私とはスケールが違います」
智は、肩をすくめて再びリムカを飲み始めた。するとちょうどその時、幸恵の注文した
ガーリックステーキがテーブルに運ばれてきた。幸恵は、嬉しそうに、わあっ、と感嘆の
吐息を洩らした。にんにくの焦げる匂いと...
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15Mar08
「どうしたんですか、智さん、大丈夫ですか?」
幸恵は、慌てて智にそう声をかけると、大声で店員を呼んで、濡れタオルを持って来て
下さい、と叫んだ。智は、幸恵の大きな声に驚いて、いや、大丈夫、大丈夫、とそれを制
するように言った。幸恵は、しばらく心配そうに智を見ていたが、鞄の中からハンドタオ
ルを取り出すと、コップの水で湿らせてそれを智に手渡した。
「智さん、これ、使って下さい。あんまり冷たくないけ...
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20Mar08
幸恵は、うっとりとした眼差しで智の話を聞いていた。そして、ハァー、と溜め息を一
つ洩らした。
「そんなにドラマチックなことがあるなんて……。私、凄く智さんのことが羨ましいです。
私のしてきた旅なんて、どれもこれも平凡で……」
「ハハハ、別にそんなに特別なことではないと思うよ。人の話だからそう思えるだけで、
幸恵ちゃんの旅の話だってきっと俺にとっては驚くようなことがたくさんあると思うけど
な。ただ...
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25Mar08
二人は、さっき智がフィルムを預けた写真屋へと向かった。フィルムを出した時と同じ
ように、女主人が二人を出迎えた。
「ハロー、ジャパニーズ、写真はちゃんとできてるわよ」
智は、彼女に礼を言って代金を支払った。それを受け取ると彼女は、笑顔で智にこう言
った。
「きれいな写真がいっぱいだったわ。ほら、これなんて、凄くきれい。一体これはどこな
んだい?」
女主人は、写真の入った袋から写真を何枚か取り出...
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30Mar08
「ええ、もう凄いですよ。何だか興奮しちゃって。私、こういうアジアの国はインドが初
めてだから、今まで見たことない物ばっかりで……。何か、街全体からエネルギーを感じ
るんです。人を見ててもそう思います。何か発散してるんでしょうね、きっと。気をつけ
てないと、押し潰されちゃいそうで」
智は、幸恵の話を笑いながら聞いていたが、相変わらず背筋に寒気のようなものを感じ
ていた。太陽の光と熱で、冷や汗が頬を...
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