05Jan08
「ぼくの場合は、ちょっと違うと思います。むしろ、不自由になりに来たと言うか……」
それを聞いて谷部は大きな声を上げて笑った。それは腹の底から響いて来るような大声
だったので、周りにいた欧米人達が何人か谷部の方を振り返った。
「まあ、ともかく、もっと楽しく行こうぜ。あんまり頭でっかちになり過ぎるのも良くな
いよ。たまには何にも考えずに素直に楽しむってのも大切なんだぜ」
「でも……」
智が何か言お...
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10Jan08
「ちょっとこれ見てみろよ」
そう言うと建は、右手を捻って二の腕の内側の辺りを智に見せた。そこには十センチぐ
らいの長さの細い傷が、川の字に三本ぐらい走っていた。皮膚が突っ張って、ケロイドの
ようになっている。
「それが、犬に噛まれた時の傷なんですか?」
「ああ、幸い目につくところにはあんまり残っていないんだが、腹や背中はもっとひどく
傷ついてるよ」
「一体どうしてそんなことになったんです?」
...
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15Jan08
「何だか、凄い話ですね。野犬に襲われるだなんて……。健さん、よく助かりましたよね」
「ああ、ばあちゃんが俺の悲鳴を聞いて、すぐに駆け付けてくれたんだ。それで必死にな
って犬どもを追い払って、人を呼んで、病院に運んでもらって……。もう少しばあちゃん
の来るのが遅かったら駄目だったかもな」
智は無言で頷いた。
「俺は、ばあちゃんっ子で、母さんはいつも働きに出てたから、幼い頃からずっとばあち
ゃんと一...
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20Jan08
「えっ、健さん、小学三年生でシンナー吸ってたんですか?」
智は驚いて聞き返した。
「ああ。シンナーは凄かったよ。まだ子供だったから余計に効いたのかな。幻覚を見るん
だ。毎回。それもアシッドで見るようなキラキラしたのなんかじゃなくって、暗くて悲惨
なの。優しいイメージなんて何にも出て来なかった。ドロドロしてて暗いんだ、見る物全
てが。周りの景色はどんよりしてて、頭の中は何にも動いていない。ただボー...
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25Jan08
「そっから先はもう悲惨だよ。かろうじて一命を取り留めたものの、住む場所も無いし金
も無い。何とか知り合いの所を点々とするんだけど、わずかな知り合いも、俺をかくまっ
てると危険だからって長居させてはくれない。もう殆ど路上で暮らしてたよ。おまけにシ
ャブ中だったから、一日中禁断症状でガタガタ震えてた。昔の仲間なんか誰も助けてはく
れなかったね。そのハーフの極道も、その後、組を破門になって行方知れずだし...
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30Jan08
建は、火の消えてしまっているジョイントに再び火をつけると一口大きく吸い込んで、
それを谷部に手渡した。
「ごめん、谷部君、これ、すっかり忘れてた」
谷部は建からそれを受け取った。
「ああ、いいよ、気にしなくても」
谷部は、建の話についてあまり言及しなかった。ただ、何か考えるように、黙って建の
話に耳を傾けていた。
「何でだろうな。誰にもこんなこと話したことなんてなかったのに。何だか、色んなこと...
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