15Sep07
鬱々とした気持ちで頭を抱えて屈み込んでいる智に、先程の小柄なウェイターが声を
かけた。
「マサラ・ドーサ」
智が顔を上げると、彼はにこりと微笑んで白い歯を光らせた。
「ああ、ありがとう」
ウェイターの屈託の無いその笑顔は、智の悶々とした気持ちを少しの間晴れやかなもの
にした。
テーブルに置かれたマサラ・ドーサは、智がよく南インドで食べていたそれと全く同じ
ものだった。パリッと薄く焼か...
続きを読む »
タグ:
20Sep07
犬歯のようなもの。
狩猟を忘れ、あのように醜く、腐った生ゴミを貪ることによってしか生き永らえられな
い落ちぶれた野良犬にさえ、未だその犬歯は白く攻撃的に光っていた。平面的に摺り潰さ
れた人間の堕落した臼歯などでは、獣の毛皮を突き破り、肉を引き裂くことなど到底でき
ない。
その、犬歯のようなもの、を智は自分に顧みた。自分の内側にも外側にもそれは認めら
れなかった。自分の身を守るための犬歯、餌...
続きを読む »
タグ:
25Sep07
徐々に出来上がっていくシバ神を眺めながら、テープレコーダーから流れてくる音楽に、
しばし耳を傾ける。音のうねりは智の感覚神経をその絵だけに集中させる。そしてしばら
くすると、思いついたように再び描き始める。そんな作業を延々と繰り返していった。そ
して日が暮れ始める頃には、ほぼ、その全体像ができ上がっていた。
微笑みながら踊るシバ神は、真っ直ぐに智の方を見つめていた。腰に巻いた腰布から無
数の視...
続きを読む »
タグ:
30Sep07
智は、リノリウムの床を転げ回り泥まみれになりながら呻き続けた。音楽は、一層激し
く智の脳髄に侵入してくる。瞳からは涙が溢れていた。血液が沸騰するように体中を巡り、
智の顔は真っ赤になった。その瞳から次々と涙が溢れだし、止まらなかった。汗と涙と鼻
汁とでぐちゃぐちゃになった智の顔は、更に床の泥や砂を吸い込んで見るも無惨な様相を
呈していた。
智はひたすら叫んでいた。声にならない、固まりのような叫び...
続きを読む »
タグ: