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ライブラリ-2007年04月

02Apr07

くさみ

智は、その女の美しさに心を奪われていた。胸がどきどきしていた。彼女には、普通の女には無い、何か特別な魅力が秘められているように感じられた。智が今まで出会ったことのないタイプの人間だった。 「本当に綺麗ね、この夕陽。綺麗っていうか、圧倒的よね、こんなにも太陽が大きいと」  その女は、沈んでいく太陽に再び目をやった。太陽は、既に半分以上、地平線の向こうに隠れている。日没はあっという間に進行してゆく。 ...

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05Apr07

城壁の中

「御飯は、下、で食べましょう。この中は暗いし、私、あんまり好きじゃないの……」  表情を曇らせながら女はそう言った。 「そうだよね、俺もそう思った。この中はあんまり好きじゃない。でもそれならどうしてこの中に泊まることにしたの?」 「それがね、ここに着いてバスを下りた途端、インド人の客引き達に取り囲まれて、必死になってそれを断ってたら、腕とかバックパックだとか色んなとこ引っ張り回されて、挙げ句の果て...

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07Apr07

スキンヘッド

「髪が今、中途半端な長さだからとても気になるの」  髪を掻き上げながらその沈黙を破るように理見がそう言った。 「伸ばしてるの?」  理実のその様子を眺めながら智が尋ねる。 「まあ、ね。伸ばしてるって言えば伸ばしてることになるんだけど、あんまり気にしてないわ。実は、私、ちょっと前までスキンヘッドだったの。だから、ほったらかしって感じ」  理見は、少し照れながら自分の頭を撫でた。 「スキンヘッド? 一...

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10Apr07

反発心

「ふうん、そうなんだ」  理見は、運ばれてきたカリフラワーとじゃがいものカレーをスプーンですくいながらそう言った。 「どう? インドは好き?」  そう聞かれて智は、少し迷ってからこう答えた。 「そうだね、好きかな、今となっては。でも色んな人がインドの話をするとき、決まって人生が変わるだの、凄い国だ、だの言うでしょう? 俺はそんなのが嫌で、始めの内は変な反発心からインドに対する敵愾心に燃えていたんだ...

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12Apr07

無性に

「ハハハ、そうか、似合ってないか」 「ついでに言うと、こういう食堂のそういう汚いコップに入った水なんかも飲みそうにない」  智は、テーブルの上のさっき理見が飲んだグラスを指してそう言った。理見は、そのグラスを右手で持ち上げて軽く揺すった。そして一息つくと智に言った。 「私ね、日本では女優をやってたの」   智は、驚いて食べていたカレーを思わず吐き出しそうになったが、理見は、相手のそんな反応には慣れ...

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15Apr07

パーティー

「私、そろそろ帰るわ。もう大分暗くなったし、ほら、あの壁の中って暗いでしょ。だからもう行かないと」  理見は、食べ終えたカレーの皿にスプーンを置いて、グラスの水を一口飲んだ。 「そうだね、送って行くよ、確かにこの町は何か嫌な感じがする」 「いいわよ、一人で帰れるわ、大丈夫よ」 「でも、俺だってどうせ暇だし、やることもないし、送っていくよ」  理見は、少し考えた後、そう、ありがとう、じゃあそうしても...

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17Apr07

レイヴ

「それってどんな人? 男? 女?」  理見は、智の方には目を向けずに、ちょっと落胆したように俯きながら歩いている。 「男、なんだけどね……」  全身に軽い衝撃が広がっていくのを智は感じた。半ば予想していた返答ながらいざ実際に聞いてみると、やっぱりそれは智をがっかりさせるのだった。 「会う約束でもしてたの?」  沈んだ声で智はそう聞いた。理見は、智のそんな気持ちの変化など知る由もなく、安易にこう答え...

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20Apr07

ガンジャ

 智達は、坂を下り丘のふもと辺りまで来ていた。昼間、あんなに騒がしかったバスターミナルも、今では嘘のように静まり返っている。うるさい客引き達は通りに一人もおらず、二人はしばらく無言で歩いた。薄暗い景色の中に虫の声が聞こえてくる。静かな夜だった。 「あの角のところが、俺の泊まってるゲストハウスなんだ」  智は、暗がりの向こうを指差して言った。理見は、その方向を目を凝らして窺って、ああ、あの赤い看板の...

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22Apr07

彷徨

「彼ね、一緒の宿に泊まってる子なの。宿出る前に少し話してたんだ」  智が、ああ、そうなんだ、と頷いていると、智に向かって一希は初めて口を開いた。 「夕方、会ったよね」  智は、夕方彼と出会った時のことを思い出し、あのときの卑屈な気分がまざまざと蘇って来るのを感じた。そして今、ようやく彼のことを思い出したという風に、ああ、あの宿の前にいた……、理見ちゃん、あそこに泊まってるんだ、と言った。一希は、そ...

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25Apr07

吸引

智は、今、自分が一体どこをどう歩いているのか全く分からない。周囲の現実は最早智から分離し、留まるところを知らない妄想が、次から次へと智を襲う。  数時間後に辿り着いた自分の宿で、智は、従業員達のしつこく誘うキャメルサファリの話を全く無視して部屋に入ると勢いよく扉を閉めた。智は、しばらくの間放心してその場に立ちすくんだ。窓の外からは、通り過ぎてゆく人々のヒンドゥー語の会話が聞こえてくる。それは静寂の...

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27Apr07

キャメルサファリ

智は、それまで全く興味のなかった、キャメルサファリに出かけることにした。それは宿のインド人達がしつこく付きまとってくるというせいもあったが、やはり、理見と一希の一件が頭から離れなかったからだろう、無意識の内に智は気分転換を図っていたのかも知れない。  初めて間近で見るラクダはさすがに大きかった。そしてその生き物は、極めて自己中心的に己だけの世界に没頭しているかのように見えた。眠そうな瞼の下から覗...

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30Apr07

野宿

ハッと我に返った智は、今、自分がラクダに乗っているという現実さえ妄想の領域に取り込まれ、そしてそれらの混乱したイメージと現実的な自分とが同じ座標上に位置し、抜け出せないでいることに気がついて狼狽した。意識の世界から抜け出すことができないという不安は、智に発狂への強烈な懸念を智に抱かせる。そして追い詰められた智は自然にインドという国を連想していた。    ――― そうだ、インドという国自体がひとつの...

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