05Feb07
部屋の中は、蒸し暑く、しいんと静まり返っている。気まずい沈黙がしばらく続いた。
凍ったペットボトルの表面の水滴が、ゆっくりとプラスチックの曲面をなぞりながら垂れていく。灰色のコンクリートの床に染みを作っていく。湿った黒い染みは、徐々に大きくなっていく。
「直規……」
智がそう言いかけると、それを制するように直規は言った。
「いいからお前、もう帰れよ」
「直規君……」
心路がそう言いかけると、直...
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06Feb07
翌朝、急に谷部と君子はデリーを発った。別れ際に谷部は、例のイタリアン・チラムを智に手渡した。智に譲ったのだ。智が遠慮して断っても、いいから、やるよ、の一点張りで、智は、大人しくそれを貰っておくしか選択肢がなかった。もちろん、前からそれを欲しがっていた建は谷部に猛抗議したが、谷部は、いいだろ、建はさんざんチラム使ってきたんだから、と、良く分からない理由で全く取り合ってもらえなかった。建は、渋々それを...
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10Feb07
暗闇の中で智は目を覚ました。辺りは既に暗く静まり返っていた。今日一日の面影が、汚れた自分の顔や散らかった部屋のあちこちに残されている。ぼやけた頭に直規とのことが思い出され、目を覚ましてしまったことがとても恨めしく思われた。できることなら、ずっと眠ったままでいたかった。嘘であって欲しかった。とても嫌な感じが胸の辺りでもやもやしている。
智は、直規が怒り始めた時にはっきりとした態度を示すことができな...
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15Feb07
ブラウンシュガーが効き始めてきたとき寝転んで、床が固いものだからそれが邪魔になって外したように思われる。はっきりと覚えている訳ではないのだがきっとそうだ。そんな気がする。
うんざりしてきた。貴重品入れの中には、パスポートも旅行費用も、ほぼ全額入っている。探さない訳にはいかないし、無くしたというだけでも大問題だ。更に落ち込んでいく精神を止める手だてを智は知らなかった。自分の不運を呪った。直規の部屋...
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20Feb07
――― これから直規の部屋に行って、また同じような目に合ったら自分はどうなってしまうだろう。どうにかなってしまわないだろうか。いっそのことこのまま消えてしまえたら、どんなに楽なことだろう。そんな恐ろしいことのために、わざわざ自分から出向いて行かねばならない。何てエネルギーのいることなんだろう。人生とはそんなことの連続のような気がする ―――
智の妄想は次第に深まっていった。ぐつぐつと焦...
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25Feb07
直規達に対して抱いていた不安は徐々に憎しみへと変わっていった。そして一旦相手を憎み始めたら、心のどこかが少し楽になったような気がした……。
だんだんと直規の部屋に近づいていく。気持ちとは裏腹に智の両足は、機械的に歩を刻み、二人のいる部屋へと近づいていく。池の果ての暗闇に灯りが点っている。開け放たれた窓から生活の光が洩れている。心臓の鼓動が高まる。喉がカラカラで、とても緊張しているのが分かる...
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